筋肉痛で体のあらゆる部位が動かし難いのは、昨日師匠に稽古をしてもらったからだ。

全てのきっかけは昭和記念公園の中で行われたBBQだった。野菜や肉を調理する係、炭を燃やし火力を調節する係、思い出を記録する写真係、今日集まった友人たちはとても仲が良いので、各々が自然と作業を分担することができた。そんな中コマツさんが自分の仕事だと自主的に選んだのは「思っていたようなジュウジュウという肉の焼ける音がしない」ので、食欲のそそる音を肉の代わりに表現するという係だった。

じゅうじゅう、じゅうじゅうじゅう、あついよぅ、焦げちゃうよぅ、もう食べごろですから取っておくれよぅ、あつい、あついあついあつい、死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅっ! ぎゃぁぁぁあ”っ!!

つい演技に力が入ってしまい、みんなから邪魔者扱いされかけたが、なんとか美味しく頂くことができたので良かった。


食後、園内を見て回った我々大人を虜にしたのは、子供の森にある雲の海であった。そこに聳えていたのは「ふわふわドーム」と名づけられた山型のトランポリン。嗚呼、あれにのって跳ねて、どこまでも高く飛んでみたいっ!それを目の前にした者なら必ずそう思うはずだ。

我々はスニーカーと靴下を捨てるように脱ぎ、一気に山を駆け登って子供たちの中に紛れ込んだ。びょんびょんびょん。縦に跳ねるだけで楽しい。が、信じ難いほど体力を浪費するので、ちょっと遊んだだけでヘトヘトになってしまう。それでも子供たちは無限のエネルギーを秘めているかのように遊びまくっていた。トランポリンで飛ぶのは、体だけではなく頭もなのだ。

そんな狂ったような群集の中に、師匠が紛れていたのだった。師匠はただ跳ねるだけではなく、お尻ではねてそのまま立ち上がったり、お尻はねから腹ばいになりそこから立ち上がったり、その過程に捻りを加えたりできる達人である。コマツさんはその優美な技に魅せられ、直ぐに教えを請うた。

師匠の指示に従い、お尻を使った技をしばらく練習していると、そこに師匠の師匠と思われる人物がやってきた。「これが挨拶代わりだ」、そう言うかのように腹ばいで跳ねた状態から半回転し、さらにそこから立ち上がるという技を披露した。素晴らしい。師匠の師匠ならば、自分の師匠でもあるはずだ。そう考えたコマツさんは「師匠、一生ついていきます!」と二人に宣言したのだった。

それから数分後、いまだお尻の技をマスターしきれずひたすら練習していると、山の下からこんな声が届いた。

「ゆいーっ、お姉ちゃーん、もう帰るよーっ」

師匠の師匠はもう一度例の技を華麗にやってのけると、タタタと山を駆け下りていった。一方師匠は「まだするのっ!」と言いながら我武者羅にびょんびょん飛び跳ねた。そこには先ほどの美しさは微塵も見らなかった。「師匠落ち着いてください」、コマツさんがそうなだめるも、機嫌が直る気配はない。「おいてくよ!」、そんな声が再び下界から届くと、師匠は泣く泣く(本当に涙を溜めていらした)山を下りていったのだった。