コマツさんは静かな湖畔をフィアンセと呼べる相手と手をつないで歩いている。所謂散歩である。残念なことに夢の中であるせいか、フィアンセの顔にはモザイクがかかっているのだが、大らかなコマツさんはまったくそれを問題にしない。

二人でロマンチックに湖面を眺めていると、どこからともなくハイキックが飛んでくる。それは突然のことで、もちろん痛い。コマツさんの後頭部にヒットしたそのつま先を丁寧に辿っていくと、当然太ももがある。そこから腰、胸、首ときて当たり前のように顔があるべきだが、そこには荒いモザイクが。そう、コマツさんを激しく蹴りつけたのは横にいたフィアンセだったのだ。

頭の後ろを激しく打ちつけられたコマツさんは、おっとととっと、とっととっとポチャン、と湖に落ちてしまう。するとどうだろう。湖面からザバザバザバっと変な服のじじいが現れたのである。コマツさんと入れ代わるように姿を見せたじじいは、フィアンセにこう言う。

「お客様がお落としになったコマツさんは、金のコマツさんですか? それとも銀のコマツさん、または普通のコマツさんでしょうか? もしかしたらこの、コマツさん相当の現金でしょうか?」

「現金です」

そう即答したフィアンセは、じじいからもぎ取るようにそれを受け取り、何事もなかったかのように湖に背を向け暗い森の中へ。

「お客様! 当湖のポイントカードはお持ちでしょうか? よろしければ直ぐにお作りしまずが」

そんなじじいの戯言には耳もくれず、フィアンセは闇の中に消えていく。

彼女は何者か? コマツさん相当の現金とは果たしていかほどなのか?? 興味は尽きないが当のコマツさんはそれどころではない。なにせ深い深い湖の底に現在進行形で向かっているのだ。ブクブクと口元から泡を吐いていたなんてのはつい先ほどまでのこと、今はただただ美しく沈んでいくだけである。