友人Kはかなり前からコマツさんを変わった人だと思っていたが、まさか分身するとは予想していなかった。週末、突然の呼び出しに応じたはいいが、目の前に二人のコマツさん。いったいどうしろというのだ。

「「見てのとおりだ」」

とおりだ、じゃねーよ!なんじゃそりゃぁぁぁといつもの友人Kならツッこむところだったが、二人のコマツさんが「見てのとおりだ」をハモったので、驚き戸惑わざるおえなかった。そんなドラクエモンスター気分の中「なぜ分身したんだ、そこから説明してくれ」と、友人Kはなんとか状況を整理しようと試みた。

「「知らん。起きたら二人になっていた」」

顔も髪型も同じなら着ている服も同じ。これに加えて話す言葉も同じでしかも同時ときたのでたまったもんじゃない。そもそもどっちに話かけていいのかすらわからないではないか。そう友人Kは苛立ちながら「いったいどっちが本物でどっちが分身したヤツなんだ」と二人に尋ねると「「本物は俺だ」」と再びハモる。これじゃあ埒があかない。二人のコマツさん二人のコマツさんで苛立ち「「俺俺、コマツさんは俺俺俺」」と主張しながら相手を真性俺俺詐欺扱い。それを数分見せ付けられた友人Kは、

「んなこと言うならどっちもホンモノなんだろ。どーでもいいけどしゃべりずれぇからとりあえず二人に区別つけろよ、なんでもいいからさ。コマツAとコマツBとかそんなんでもなんでもいいよッ」

とプチギレ。てはみたものの、しまった!とすぐさま後悔。この分け方だったらAのほうが本物で、Bが偽者に見えてしまうではないか。これじゃぁまた喧嘩になちゃうYO!

予想どおり二人のコマツさんの言い争いは加熱した。もののその内容は思っていたよりも酷いシロモノで、一方が「俺はAのプレッシャーに耐えられない。だからBで」と主張するのに被せ「馬鹿か、Bは俺だ。俺だって哀れなBとしてみんなに同情されたいッ!」ともう片方が言う始末。プライドもへったくれもないが「一番になりたがるヤツの気が知れない」とぼやくのをよく聴いていた友人Kは、嗚呼やっぱり二人になってもコマツさんはコマツさんなのだな、と少し親身になる気が起きたりもしたのだった。

友人Kは壮絶なB争奪戦の仲裁に入り、一方を本家コマツさん、もう一方を元祖コマツさんと呼ぶことで少し強引に話を落ち着かせた。そして二人に区別のために印を付けてはどうだと提案。両者の承諾を得、また喧嘩になるといけないのでどちらの額にも書くこと、本家コマツさんには「本」と元祖コマツさんには「元」の文字をマジックで描くことまで一気に決めた。友人Kが間に入った甲斐あってか、二人のコマツさんは徐々に仲良くなりはじめ、終には「くすぐったいよ〜、へへへへへ」とかなんとか言いながらキャッキャキャッキャとお互いのおでこに印を書き合うまでになった。


そして今後の計画などまるで立てないまま、三人でボードゲームを囲んで遊ぶことになった。どっちのコマツさんだか忘れたが、その片方が「人生ゲームやりたい」と言い出したのだ。結果はというと、本家コマツさんが大勝、元祖コマツさんが大負けし、友人Kはその中間となった。「俺は勝ち組コマツだったんだな、にゃははは!」「俺が負けコマツのはずない。来世ではきっとお前より上だ!」などとコマツさんたちは異様に盛り上がったが、それを眺めていた友人Kは、勝とうが負けようがあんたらコマツ以上でもコマツ以下でもないよ・・・・・・、と哀れみの視線を二人に送るのだった。

散々遊んだ後(←大貧民などで)「「眠い、寝る〜」」と二人が言い出したので、「じゃあ僕帰ります」と友人Kはすかさず口にしたのだが「「それはいかん。明日起きたら四人になってるかもしれないから泊まってってよー。俺は自分で自分をまとめる自身はない。ないんですぅぅぅ」」と泣くフリをしながら二人がかりでしがみついてきたので、嫌々ながらもそのまま残ることになってしまった。


翌日、先に起きた友人Kが寝ているコマツさんを覗いてみると、二人が一人に戻っているので驚いた。「おいッ!戻っているゾ!!」と興奮混じりのビンタで叩き起こすと「五月蝿いッ、この蝿めッ、あっちいけあっちいけ」と両腕をぶんぶん振り回しコマツさん完全拒否。昨日の恩をさっそく仇で返してきたのだった。友人Kは改めて目の前の男を軽蔑し、こんな部屋にはもう一秒でもいたくない!と出て行こうと思ったが、ふと、昨日額に描いた文字はどうなったのか、と疑問に思ったので、むにゃむにゃと二度寝をはじめたコマツさんの前髪をぐいッと掻き揚げて見てみたところ噴出した。元本。