「俺のような人間を信用しているヤツなんか信用できない。まして好きだとか言ってくるやつなんて、気が触れているとしか思えない」

そんなコマツさんの発言を耳にした友人Kは、ふとある女のことを思い出した。その女は友人Kとは長い付き合いだったが、コマツさんとは何かの集まりで一度一緒に飲んだ程度、それにもかかわらず「ああいうタイプの人間が一番信用できない」とコマツさんをハッキリと拒絶したことがあった。友人Kはそのことが妙に印象に残っていたのだ。もちろん彼女も一端の成人なので本人の目の前でそんなことは言わない。なのでコマツさんはそのことを当然知らなかった。

思いつきを大切にする友人Kは、これはきっとなにかの機会だとその女のこと、そして女がコマツさんをどう思っているかを話してみた。

「素晴らしい。そいつは信用できる!」

コマツさんは女のことはまったく覚えていなかったが、是非紹介して欲しいとしきりにせがんだ。女のほうはきっと断るだろうと思っていた友人Kだったが、「なんか面白いかも」と安易に誘いにのってきたためトントン拍子で三人で夕食を供にすることになった。

友人Kは、何か嫌なことが起きるに違いない、と予想していたが、その集いは終始友好的に進められ、次の日「変わってるのは事実だけど、思ったより嫌いじゃない、っていうか結構好きかもコマツ☆さん」という趣旨のメールが女から届いた。これは恋とやらが始まる前兆なのでは!?と感じた友人Kは、キューピッド役をキチンと演じなければという使命に駆られ、あの後こんなメールがきたんだよー、とさりげなくコマツさに女の話題を持ちかけた。

メールの内容を見たコマツさんは「こんな知性の欠片もない女は信用できない。善悪の感覚が麻痺しているに違いない。末期だ、末期!」と眉間に皺を寄せながら強く言い放った。それを目の前にした友人Kは、解読不明の罪悪感を味わうことになった。いったいなんだっていうんだ!もしかして俺の伝え方が悪かったのか?戸惑う友人Kにコマツさんは言う。

「お前は腐れ縁、ってだけで俺のことなんかまったく信用していないだろ?」

友人KがおそるおそるYESと肯く。

「だからお前は信用できるんだ」

そう微笑むコマツさんに対し、一言「お前は信用できる」と口にして一生縁を切ってしまいたい衝動に駆られた友人K。しかしいざ実行に移そうとすると嘘でもそんなことは言えない道徳馬鹿の自分に気づき、愕然とさせられた。ああ神よ、なぜこんな仕打ちを・・・・・・。友人Kは、この男と出会ってしまった自分の運命を、ただひたすら呪うことしかできないのだった。