コマツさんは震える携帯電話を手にとり、画面に映し出されている情報を確認した。随分と連絡をとっていない相手だったが、拒否する理由もないので通話を許可した。

「おーす、アノ話なんだけどさ―」

「アノ?」

「ん?」

「んん?」

「あー悪いかけ間違えたかも、俺のアドレス帳の中にコマツって4人いるんだよねー。で、どのコマツ?」

ど、どのコマツとな!? 


今までコマツさんは、自分がカトウさんでもスミスさんでもないコマツさんであることならしっかりと自覚していたが、コマツの中でどのコマツなのかと訊かれると、ハッキリと自身を示すことができないことに気づいた。フルネームを伝えたところで普段下の名前をめったに呼ばれないことを考えると、それで気づかせることは難しい。また他のコマツさんともまったく面識がなく、自分と比べようがない。どうしたものか。

いくつかの点を考慮した結果、コマツさんは自分が他のどのコマツさんでもないこのコマツさんであることを示すために、こう相手に伝えた。

「お前が知る中でもっとも愛くるしいコマツがこの私だ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「そんなコマツは存在しない」

完全否定された上、一方的に通話を切られたコマツさんは、自分の魅力がいかに周りに伝わっていないかを実感するのであった。