昨日ミュージック・マガジンを立ち読みし、ROVOのインタビューに目を通した。そこで言われていた、ポップとポピュラリティは違うよねって話がおもしろかった。自分がポップだと思っていても他の人は全然そうは思ってくれなかったりするってことは、自分にも経験がある。でも、それを超えた(?)ポピュラリティ、大衆性ってのもあってそれだって面白いんだって考え方に、「にゃるほど!」と頷かされた。


米澤穂信二冊目、『さよなら妖精』を読む。これってもしかして素晴らしいんじゃない?と思えてしまう不思議な魅力のある作品だった。個人的には「なかなか面白かった」ぐらいなんだけど、↑で書いたようなポピュリズムがあるような気がしたのだ。しかも驚くほど効果的な。

読んでいるときの雰囲気は、先日読んだ『春期限定いちごタルト事件』と似ているのだけれど、あとがきの参考文献が示しているようにこの本には明確なテーマがあった。それはユーゴスラビアなんだけど、別に「ユーゴを扱っているから偉い!」と言いたいわけではなく、身近ではない問題をうまいこと小説の中に溶け込ませているのが凄いなぁと思わせれたのだ。

残念ながら、小説に許されている広大な表現範囲に対して、非常に心が狭い(としか言いようがない)態度でしか向き合えない読者が世の中の大半を占めている。こんなことを書いている自分ですら、そこから完全に抜け出せているとは言い切れない。そんな状況で大衆性を保ちつつ面倒なテーマをちゃんと語れるってことは、結構驚くべきことじゃなかろうか?

米澤さんの作品は「誰も死なないミステリー」と言われ、この作品もお決まりな殺人事件はおこらない。それでいてちゃんと小さな謎をちょこちょこ解き、最後に大きな謎にぶつかる。また完全とはいわないまでも、非常に直線的な語られ方をしている。だからとても読みやすい。どこか幼稚さを匂わせつつも、そうは絶対言わせない力がちゃんとあるのだ。

終盤がとても魅力的。ユーゴの問題が他人事にならなくなった4人(もっと言えば5人!)がとったおのおのがとった行動、態度がバランスがとれていて、しかも誰もが誠実だったりするのでジーンときてしまいます。躊躇わすような気持ち悪さなしに、読み手をこんなとこまで辿りつかせることができるってのは、とっても稀有なことなんじゃないだろうか。まぁ、その(俺が勝手に思った)大衆性が本物かどうかはまだわからないので、まずはいろんな人に薦めてみようと思う。


さよなら妖精 (創元推理文庫)