■ついにコンポがぶっ壊れる。CDが取り出せなくなったので、ドライバー片手に解体し、中に閉じ込められていた若き日のアレサ・フランクリンを救出。それが同時にコンポに止めを刺すことになったのである・・・・・・。

断りもなく壊れやがって!という怒りはない。思い返せば初めてのバイト代で買ったコイツは部分的に壊れていきながらも10年近くもってくれた。ありがとうバラバラにしているとき泣けばよかったかもしれない。そうだ、別に誰も見ていなかったのだから号泣したことにすればいい。

コマツさんの眼は紅い。なぜなら失った友を偲んで泣き明かしたからだ。気づくと日は昇り始めており、カーテンから差し込む光を受けたコマツさんは、気が抜けたのか急に床に倒れこんで眠りについた。その耳元で誰かが囁く、

「大丈夫、お前はもう一人でやっていけるさ」

誰かに肩を叩かれたような気がしたコマツさんはハッとなって目を覚ます。起き上がり辺りを見回しても誰もいない。他の部屋かと一歩踏み出すと、昨日の解体の結果床に広がることとなったネジをふんずけてしまい、アギャー、と奇声をあげる。こうなったらもう肩がどうしたなどの話ではない。痛い、痛い痛い痛い。心より足の裏が痛い。

岸本佐知子『ねにもつタイプ』。変わった小説家ばかり翻訳する、変わった著者による変わったエッセイ集。短い中にぎゅぎゅぎゅと詰まっていて、ひとつの短編小説を読んだ気にさえなる。