金井美恵子さんの『ページをめくる指』という本を読んでから、大型書店や図書館に行く度に、ちょこちょこ絵本を手に取るようになった。それは所謂「大人の絵本」的な楽しみ方ではないし、かといって「子供の読ませる/読み聞かせるための本」として、それを読んでいる子供を想像しながら楽しむ、というものでもない。ならばいったいなんなのだと問われれば、「普通に面白いから、普通に楽しんでいる」と答えるしかない。強いて付け加えるとすれば、絵と言葉(←こっちはないこともあるけど)があって、ページをめくると話が進んでいる、という楽しみ方、自分の感覚で例えると漫画の延長線上とて楽しんでいる、のだと思う。

金井さんの本に出会う前にも「絵本やべぇ!」という体験があった。それはとても奇妙な『あかずきん』をブックオフでたまたま見かけたことだ。たいへん眉毛が濃くていらっしゃるあかずきんもインパクトがあるのだけれど、それより凄まじいのが狼で、おばあさんに襲い掛かるシーンは、大人の自分でさえも「怖いッ!」と思わせるほど恐ろしく描かれている。そしてさらに、おばあさんは狼に食われたまま生き返らない、というバッドエンドときたので「なんじゃこりゃー」と思わずにはいられない。買おうかどうか迷ったけれど、その時はまだ自分の中の絵本ブームがやってきていなかったので、そのまま帰宅することに。嗚呼、でもやっぱ欲しいと次の日寄ったところで時は遅し、昨日あったはずの本はどこにもなかったのであった。

内容が内容だったので「あれ夢だったのかしら」とぼんやりとした記憶としてしか残らなかったのだけれど、『ページをめくる指』で紹介されていた『タンゲくん』を見て、これはあの絵ではないか!とハッとさせられることに。そしてその強烈な印象を見るものに与える絵を描いたのは片山健、という人だと知り、不思議と嬉しくなって他の本もいくつか読んでみたのだった。

圧倒的だったのはやはり『タンゲくん』で、この本はいくつか賞を受けている「傑作絵本」でもある。その内容は、タンゲくん(と呼んでいる片目の潰れた猫)のことが好きで好きでしょうがないんです、という女の子の愛の告白で、教訓じみたことは一切なく本当にそれしか書いていない。そのことは「タンゲくんがいるだけでうれしいです」という一文が象徴しているように思える。読み終えたあと自分も、タンゲくんのことが好きで好きでしょうがなくなっている、という謎めいた幸福に満ちた絵本だ。

片山さんの絵本はいいものが多いのだけれど、笑ったのは『どんどんどんどん』と『7日だけのローリー』。前者は半裸の男の子がどんどんどんどん進んでいくだけのお話なのだが、何の前置きもないままいつの間にか巨大化し、ゴジラといっしょに都市を破壊しながら進むというところまで発展→爆笑。後者はローリー寺西がいきなり出てきたので思わず吹きだしてしまった(もちろんそのローリーを知らなくてもちゃんと楽しめる)。

ここまで書き進めれば、最初に記した「普通に面白いから、普通に楽しんでいる」という感覚を、少しは理解していただけたかもしれない。倉橋由美子さんがたしか『星の王子様』のあとがきで、童話のような語り方だからといって子供に対して書かれているとは限らない、というようなことを書いていたと記憶するが、絵本に対しても同じことが言えるだろう。絵本だからといって、子供に対して書かれているとは限らない、所詮それは手法のひとつにしか過ぎないのだ、ということが、少ないながらも最近幾つか絵本を読んでみて感じた実感である。