「すっぽんぽんのすけ」シリーズを紹介する。これはヒーローが悪を駆逐するという、一般成人男性には必要のないストレートな内容の絵本なのだが、タイトルから薄々気づいている方もいるとおり、そのヒーローは全裸なのである。

戦隊ヒーローものやライダーシリーズなどで定着している、変身することにより強くなるパターン(時にウルトラマンのように巨大化まですることもあるが)。バッドマンやスパイダーマンのように、変身しなくてもいいのに日常の姿と一線を引くために、あえて着込むという行動にでるものもいる。

そのパターンは『すっぽんぽんのすけ』でも使われているのだが、それがなんと、逆に着ている服を全部脱ぎ捨てる、ということで変身するのである。フルチンである。しかもなぜか、後頭部にちょんまげを着けるという、あってもなくてもいいオマケが付き、それが全裸であることをさらに引き立たせている。

一作目では、おかあさんに「パンツはきなさい」と怒られた風呂あがりの少年が、はかずに家を飛びで、夜の帳の中にもぐりこむ。(特に理由もなくなぜか)そこで悪い忍者と出くわし、いろいろあって(いや、いろいろないのだが)そいつらをやっつけるのである。

そのやっつけ方が凄い。「すっぽんぽんのすけ返し」という、超絶の必殺技は、なんと相手を服を引き剥がし、全裸にしてしまうのである。ひん剥かれた忍者は、いやん恥ずかCッ!、と逃げ去るのだが、その光景を、すっぽんぽんのすけは同じく全裸状態で(!)胸をはって眺めるのである。お前たちは裸であることが絶えられないのか、まだまだよのぅ・・・・・・、と。

子供が裸で暴れたら「やんちゃ」で済むが、大人が同じことをやったら「ヘンタイ」でしかない(というか猥褻物陳列罪でしかない)。故に、多くの親は自分の子供が人前で全裸であることを自分のことのように恥ずかしく思ってしまうのだが、当の子供からしてみると、こんな自由で楽しいのになぜ止めるのだ、なぜ恥ずかしいなどと思うのかねキミたちオトナは!という気分に違いない。『すっぽんぽんのすけ』は、そんな子供の特権的な自由を強調させる内容になっている。

『すっぽんぽんのすけ』は変身ヒーローものや大人的ジョーシキを小馬鹿した、様々な意味で批評的な作品で、続作『すっぽんぽんのすけ せんとうへいくのまき』では、もうそこでは全裸は普通だろ!と読み手をツッコませるといった、自己批評的なところにまでつき進んでいく。

作画を担当している荒井良二さんが手がける絵本には『そのつもり』、『たいようオルガン』など(個人的には勢いにまかせたボーイ・ミーツ・ガール『ユックリとジョジョニ 』も好き)の絵本的傑作があり、「すっぽんぽんのすけ」シリーズはそれに比べると遥かに劣るのだけれど、どうにもこうにも目を引き、なんとなく人に伝えたくなるという魔力がある。

先ほど「すっぽんぽんのすけ返し」をくらったコマツさんは、この文章を全裸でカタカタ打っている。この絵本を読んだ後なので恥ずかしくなどなく、むしろ爽快な気持ちである。人間とは本一冊で、こんなにも自由になれるのだ。このまま書を捨てて町にでてしまいた気持ちだが、一応念のため、『はだかの王様』をその前に読んでおこうと思っている。