「こののり佃煮さえあれば、ご飯が何杯でも食べられます」

そんな広告的な言葉を口にすると、コマツさんは再びどんぶりを手に取り、わんこそばを食すかのような勢いでご飯をかっ込んでいった。周りにいた人々はそれを特に不思議がることもなかった。普段とても少食な人なのだから、きっとたいへん美味しいのだろうと思っていたし、普段は見られないその楽しげな行動を、微笑ましく見守っていたかったのだ。

心優しいギャラリーがいなくなっても、コマツさんは食べ続けた。何杯も何杯も何十杯もおかわりを繰り返し、ついには炊飯器が悲鳴をあげた。そして第一発見者も悲鳴をあげることになった。さっきまでニコニコと食事をしていた男が倒れて死んでいたのだ。

「まるでお稲荷さんのようだった」。体内にご飯がつまりにつまった肉体を切り開いた検死官は、うんざりした表情でそう感想を漏らしたという。はじめは都市伝説のように扱われたその事件だが、同様の死体が増えるにつれ世界的な問題として捉えられるようになっていった。しかし時既に遅し、対抗策を捻り出す前に人類はみなお稲荷さんになって滅亡してしまったのだ。

こうして遠い星から来た知的生命体の策略「のりのり大作戦」にまんまとはまり、地球はその支配下に置かれ、温暖化問題にギャーギャー騒ぐことなく22世紀を迎えたのだった。その頃コマツさんはというと、地獄ではじめたのり佃煮事業が大成功し、今でもコンビニで売っているビン詰めのラベルを見ればその姿(正確には二頭身のイラストに満面の笑みの顔写真が付けられたもの)を確認することができる。