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清く! 涼しく! 美しく!
子供たちが楽しげにそう連呼しているのを耳にして、そうありたいものだと汗を拭い、ためしに背筋をぴんと伸ばしながら歩いてみた。何が可笑しいのか理解に苦しむが、小学生(特に男子)は――お笑い芸人のネタを例に挙げるまでもなく――気に入った言葉を飽きるまで使い続ける生き物であることはよく知られている。気に入った点は彼らと違う(はずだ!)が、妙にその言葉の並びが気に入ってしまい、頭の中でそれを繰り返しながら夜の散歩を楽しんだ。
ガシャン!
突然目の前で自転車が倒れた。より正確にいうと、乗っていた人間によって自転車が前方に投げ出された。暑さにやられたか(いろんな意味で)と思い目をやると、そこには大変太っていらっしゃるビックな女性が呆然と佇んでいたのだった。あっけにとられた、というようなその佇まいは、見ているこっちにも不穏な空気をギシギシ伝えてくる。
そこに母親らしき人物が駆け寄って声をかけた。
「無理よ、危ないから止めなさい」
「この前は乗れたのに・・・・・・」
そう言いながら再び自転車に跨るビックな女。ペダルを漕ぎ、フラフラと不安定に前に進んでいく。そして急にハンドルが45度になり、その瞬間身だけ残しまた勢いよく自転車を手前に投げ捨てた。
ガシャン!
横になった自転車を、得体の知れないもののように見つめる彼女。
「この前は乗れたのに・・・・・」
まるでそれしか言えないかのようにそう繰り返すと、ゆらゆらと前屈しハンドルをつかんで持ち上げ、再びサドルに腰を下ろした。
「怪我しちゃうから!」
と止めに入る母親。抵抗する娘。その横を何食わぬ顔で通り過ぎるコマツさん。
清く! 涼しく! 美しく!
そんな真夏の夜の現実。