プリングルスハニーマスタード味が死ぬほど食べたい」

それは寂しい人間にありがちな、孤独を紛らわすための一人言だった。けれどもその後少し変わったことが起きた。お髭の妖精さん(←パッケージのアイツ)がにゅるりと現れて、「だったらそうすればいいじゃない、何を迷うことがあるの?」と耳もとで囁きやがったのだ。

「その手があったか!」

コマツさんは立ち上がりながらそう叫ぶと、プリングルスが比較的安価で手に入る、〈おかしのまちおか〉に向かって颯爽と走り出した。

こうしてお尻の出口から舌の付け根まで、びっちりみっちり噛み砕かれたポテトチップスでいっぱいにしたコマツさんは、予定通り苦しみもだえて死んでしまったのだった。



その死因を聞いた友人Kは、なんてコマツさんらしい無駄で無謀な死に方だろうといたく感心すると共に、それなりの悲しみを抱えながら葬儀にやって来た。受付には大変美しい女性が待ち構えており、Kが記帳を済ませると彼女はこんなことを言いった。

「故人は短い遺言を残されました。大変異例ではありますが、それに従って葬儀を行いたいと親族は望んでおります」

そして二枚のポテトチップスを差し出された。対称的に合わせて口に咥え、開いた嘴の様な感じで☆と指示されたKは、特に抵抗せず言われた通りにしたものの、自身の姿が今どうなっているかとやはり不安に思い、近くに鏡はないかとキョロキョロ辺りを見回した。

探しものは見つからなかった。けれど式を行っている部屋に入ってみると、その必要がないと知った。参加している全ての人間が、Kと同じようにスナック菓子を咥えていたのだ。

椅子に座り整然と並んだ人々は、みな喪服を着ていたので、頭の悪そうなカラスがお行儀よく集まっているように見えた。思わず笑いがこみ上げてきたKは、口元のものを噛み砕きそうになったが、必死に我慢しなんとか堪えることができた。そんなことをしたら故人に失礼であるし、そもそも笑っている場合ではなく、これからKもその中に加わらなくてはならないのだ。それを理解し脱力したKは、遅まきながら2枚のポテトッチップスからとってもハニーな味がすることに気づき、一瞬だけ幸せを感じた。黙祷。