再放送が多いので、録画したもののマメに見ていなかったBS世界のドキュメンタリーをまたちょこちょこ見始める。

「“マダム・ムラ”で昼食を 〜フランス 家族食堂の100年〜」という地味なドキュメンタリーに地味に心打たれる。冒頭の客が料理を食べるシーンがいい。男どもが食べているシーンを映すだけ。映画的と呼べそうなそれは、かつては効果的だったのかもしれない(が今では食傷気味の)テレビ的な料理と食事の映し方ばかり見ている自分にとって、とても新鮮に感じ、かつ久しぶりに匂いのない画面から食欲をそそられた。

貧しさの中で「少しでも稼ぎを」と始められた貸し宿業。その一環として行われた食事の提供が時代の流れで独立し、伝統的な家庭料理を提供する家族経営の食堂となった。代々女系で引き継がれており、現在は4代目と5代目が経営している。その食堂の創業100年を記念しこのドキュメンタリーが撮られることとなった。

昔の写真を引っ張りだしながら一代目からその歴史を追っていく。二度の世界大戦の経験、家族経営特有の困難さ、制度の変化による影響などを語りながら、今の姿を炙り出していく。物置を漁っているとき、4代目の結婚パーティーを食堂で開いたときのメニュー表が出てくるというシーンが素晴らしい。明らかに作りすぎのそれを前菜から読み上げていくと、見たはずのないそのパーティが、不思議と思い起こされる。

周囲の人々は「伝統的な」とか「昔ながらの」などとこの食堂持ち上げるが、その経営の実態はかつてのそれと比べて様々な点で変化していた。厳しい衛生管理による規制、休みの取れない重労働であることなど様々な影響を受け、経営そのものが難しくなっている。長く存続するということは時代に合わせ変わっていくことなのだと実感。それ故に100年という時の流れがはじめよりも重く感じられる。

見ている者はありがちだが変化の中で何か大切なものが失われていくような感覚を覚える。しかし4代目はこう断言する「昔に比べてて、今のほうが確実に良くなっている」。その言葉は家族食堂を大きくとび越えて響いていくように感じた。最後に映し出された創業100年を記念したパーティー。主役と思われた4代目5代目は自ら料理を作り、沢山作ったから大いに歌い踊ってくれと呼びかける。小さいながらも盛大な一夜が明け、何事もなかったかのように食堂の一日がまた始まる。


http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/081007.html