年末のスーパーはこちらの足元を見ているようで何でも高い。大型店の多くは「年始も休まず営業」が定着し、最後の大値引きも期待できない。一方、八百屋など小さめの店は年始をちゃんと休むらしく、スーパーの価格とコントラストになるせいもあって、その商品の安さがやたら目につく。

とあるちょっと大きめの八百屋で大根が山のように積まれていた。スーパーの半値以下の値段が赤字でデカデカと掲げられていて、それ目当てに人、人、人が群がっていたのだけれど、突然一斉に身を引いたので驚いた。何でだろうと開けたスペースに入っていくと、そこには白い塊がわんさかあった。つまり大根の山が崩れ、大量のそれが地面に落ちて砕けてしまったのだ。そのあまりの白さに、初雪を見たかような恍惚が訪れたのだがそれも一瞬。かわっちゃいけねぇ、と自然とその場を後退ってしまうのだった。

さっきまでそこに集まっていた奥様方は、私は犯人ではない、私以外が犯人なのは間違いないがそもそもこの事件に犯人などいるのでしょうか、いいえいませんこれは事件というか事故なのです、そうですそうなんです仮に犯人がいたとしたらこんな事故が起こる状況を作った店の方じゃないかしらおほほほほほほ、といった身振り素振りでそこではない店内を堂々と歩き回っていた。

その「事故現場」に初めて気がついたのはアルバイトであろうキレイな顔立ちをした東南アジア系の青年で、慌てながらすぐに店のエラい人を読んできたはいいも、どうしてこうなったのかうまく説明できず、とりあえず「僕は悪くないんですよ」というアピールをしきりに繰り返していた。

店のエラい人は、わかったわかった、と青年を落ち着かせ、あーやっちまったなぁと砕けた大根を別に山積みし、文字どおり「破格」の値段をちょちょいと書いて貼り、もといた所に戻っていった。

値段もあるが、大根で人を殴ったらこんな割れ方するんだろうな、と想像してみたら、妙にそれが魅力的に思えてきたのだけれど、いざ食べると考えると急にグロテスクに思え、結局自分は破格前のきれいな大根を買って帰ったのだった。六十八円なり。