有言実行。響きはいいが「モノによる」という大前提があることをよく理解しておいたほうがいい。

「カレーに溺れて死にたい」

そのコマツさんの口癖を耳にした友人たちは、そんなにカレーが好きなんだなぁと特に違和感を持つことはなかった。というかそもそも、先日コマツさんの死体がカレーまみれで発見されるまで、みなそんな言葉などすっかり忘れていた。

死体は全裸の状態で自宅の風呂場で発見された。浴槽には大量のカレーが流し込まれており、第一発見者である友人、Kさんによると、水面(正確にはカレー面)からやや毛深い左足飛び出ており、それで中にコマツさんが沈んでいるのがわかったという。彼は多少躊躇いながらもそこ中にに手をつっこんで、コマツさんを引っ張りあげようとしたところ、浴室というとても狭い空間に恐ろしいまでにスパイシーな香りが充満し、クラクラしてコマツさんの二の舞になりそうだったと後に述べている。ちなみにそのカレーは追い炊き機能により、とてもいい感じの温度を保ち続けていたらしい。

最初こそ「手の込んだ自殺なのでは」と囁かれたものの、現時点では「思いつきを実行し、興奮のためすべってころんで気を失い死んだ」ということで大方の意見は一致している。コマツさんの行動に対し「なぜそんなことをしたのか?」と問いかけるのは無意味でに等しい。結果的に有言実行だった。つまるところそういうことなのだが、あらゆる迷信や予言、または伝説などというものは、そんなことから生まれるのではないだろうか。