お前程度の人間に
ちくわの何が解るというのだ!


この挑発的な文字を書店やコンビニで見かけた方はとても多いことでしょう。自称、輪型食品研究家のコマツ氏によるロングセラー新書『なぜうまい棒には穴が空いているのか』は、ドーナツなどのわっかの形をしたものと、ちくわのように筒状の食べ物を輪型食品としてまとめ、その知られざる魅力を紹介した本でした。

拒否感を感じる人も多いその帯の言葉とは対照的に、本の冒頭は「普段私の左手の薬指にはリング状のものが通されているが、それは当然ポテコです」と愉快にはじまり、以降熱意のこもった文章が最後まで続きます。「自然界にはこんな形をしたものは無い。これは人類が生み出した究極のデザインである」と声高に断言する著者に影響され、昨年本がヒットして以降「輪型」と銘打った商品が、食品だけでなく様々な分野から出てきたことはみなさんご存知のところでしょう。中には「コマツ認定!」とパッケージに書かれたものもあるほどで、その人気は留まるところを知りません。

「輪型食品」という概念と共に自身もとてもポピュラーな存在にしていった著者ですが、先日週刊誌に奇妙な写真が批判的な記事といっしょに掲載されました。それはとんがりコーンを両手の指全てに差し込んだ状態で微笑んでいる著者の写真で、「変人研究家 輪型だけでは飽き足らない!?」というものでした。記事自体は半分ふざけたもので、人気者にあやかろうといった類のものでしたが、「アレは本位ではなかった、テロリストに強制された行為だ!」「三角錐食品派の陰謀だ。ほぼ裏はとれている」などと本人が過剰な弁解をしてしまったため、再び世間を騒がせることになりました。

これを面白がったマスコミは「ちくわドーナツ研究家、でも主食はナッツ」、「筒があったら入りたい!? アノ著者のアノ関係」、「精神科医が分析する、あの男が輪型に固執する本当の理由」などなど、立て続けに誹謗中傷するような記事を並べ立て、彼から奇怪な反応を引き出そうとしました。そしてよせばいいのにコマツ氏は、その度にしどろもどろな弁解を高潮した顔で反復。その結果「輪型」と耳にするだけで失笑するような人々が多くなることにつながりました。ある食品関係者は、大量に生産した輪型食品を片手に「この調子だとブームは年内どころか夏も越せなさそうだ・・・・・・」と眉間に皺をよせ、ため息まじりに語ります。

数多いファンの一人であった私は、この一連出来事を見、コマツ氏のある言葉を思い出しました。それは頭で紹介した新書の中にある、ドーナツ型の食べ物の魅力について神秘的に書き記したところです。


「この形には終わりもなければ始まりもない。そこに人間という存在が、その行為(つまり噛み切るという行動)が介入することにより、始まりが生まれそして同時に終わりが生まれるのだ」